蟻穴

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「ありがとう。ブランク」 「礼には及ばぬ」 想定よりも早く、龍希達はドラゴンの世界に戻って来た。その背に引かれるような想いを背負わずに済んだのは、全てブランクがその翼で受け止めてくれたからである。その想いに報いらねばなるまいと、龍希は世界を繋ぐトンネルで振り回された良いを捻じ伏せた。 「ブランクも何か食うか?」 「うむ。一つ貰おう」 ブランクは龍希が持っているビニール袋の中に手を突っ込みパンを一つ摘まみ上げた。その中には他にも袋菓子やペットボトル飲料などが入っており、これは緊急事態とだけあって一刻も早く出発しようとする龍希にバニアスが家中の食糧を搔き集めて選別としてくれたものである。 「そう言えば最近はあんまり気にしてなかったけど、此処って神聖な場所なんだっけか」 「いや、トンネルを剥き出しにしておかぬよう覆い隠すのに神殿風の飾り付けを選んだと言うだけの話だろう。この場所そのものに特別な意味があると言う話は聞いたことがない」 「なら、遠慮はいらないか」 龍希は一瞬見張り役の兵に目配せを行い、こちらを注視していないことを確かめるとブランクに続いてパンを口に運んだ。 「それで、越光さんをどうやって追うかだよな。正直情報が全く足りない。有子の話だとシノバズの手先が直接攫いに来たってことだから、連れて行かれたのはそのアジトの可能性が高いけど……」 「そう簡単に本拠地が割れるような連中ならここまで長くこの世界に蔓延ってはいまい。やはりバレット達に再び協力を仰ぐのが筋であろうな。今度は妥協点を探すような交渉ではなく、堂々と共通の敵を倒そうと持ち掛けられる」 ブランクがそのバレットがいるであろう火の国の方角を見据えると、丁度その先に向かおうとする隊列を発見した。
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