蟻穴

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その疑問を尋ねる機会は想定よりも早く訪れた。 「そこの物陰に二人潜んでいるぞ!」 「ッ……!?」 隊列の最後尾にいる兵がそう叫んだ。龍希は咄嗟に身を屈めたが、ブランクはあっさりと隠れるのを止めた。 「編隊を組む場合は、探知に長けた者を一人配置するのがセオリーだ。最後まで尾行するのはどの道不可能だったと言うことだろう」 「だけど、そんな堂々と出て行って大丈夫なのかよ」 「別に敵ではないのだからいつまでもコソコソとしている必要もあるまい」 しかしブランクは龍希にそう言いながらも、内心少し緊張しながら隊列の先頭にいるリーダーらしき人物に歩み寄った。 「ブランク・マキナだ。テルダと少し話がしたい」 「……ええ、移動しながらで良ければですが」 (ギリギリのところでセーフと言ったところだな) マキナ家の眷属であるアルフやクレーメンスが国軍の上層部を務めていた以前であれば大抵の我儘は押し通すことができた。しかし現在はマキナ家の勢力も衰退し、国軍の中に多数の同胞を残す程度に留まっている。加えて反マキナの立場を徐々に露わにしつつあるギランハーツの影響もあり、マキナ家の跡取りと言う立場である自分のネームバリューが国軍の中でどうなっているのか非常に推し量り難い状況であった。 結果としては、内心は読めなかったがどうにか頼みは聞き入れられたと言うところに落ち着いた。ともあれ、接触が許可されたため早速二人はテルダとジアの配置されている列の中央に向かった。 「何だ、お前達もう帰って来たのか……」 肝心のテルダは二人の顔を見て気まずそうな表情を浮かべ、できることならやり取りをすることなくこの場を終わらせたいと言う心の声が滲み出ている。 二人はこの反応によって何としても事情を聞き出さなくてはならないことを確信した。
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