蟻穴

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「此方ものっぴきならぬ状況だ。可能であれば共に行動したいとさえ考えている。行き先は炎の国であろう」 「まあ……そうだな」 協力の申し出にも相変わらずテルダの返事は歯切れが悪い。しかも周囲はテルダを急かしたり置いて行くわけでもなく、ただ遠巻きにじっと見守っている。これはブランク達としても居心地が余り良いものではないため、テルダを隊列に戻して行進を再開させつつ、最後尾に誘導して僅かに距離を開けさせる対応を取った。 「先ほどから何を隠している?別に我々はお前達の計画に口出しするつもりはない。邪魔をするつもりもだ」 「……それは、本当だろうな」 「逆に、お前が口を噤むのであれば我々は好き勝手に動かせてもらうぞ」 「分かったよ。先に断っておくが、お説教なら聞かないからな」 念入りな前置きを挟み、ようやくテルダはこの隊列の正体を口にした。 「地下街が襲撃された話、お前達なら当然知ってるよな」 「知ってるも何も、俺達はその場に居たよ」 「ああ。それも承知の上だ。それで、大量の脱獄犯や殺し屋の連中を炎の国の連中が捕獲したことが国軍で問題になっててな」 「本来であれば自分達が身柄を確保すべき者達が全員連れ去られたと言うことだからな。またかつてのように、司法を無視した私刑を実行されてはたまらないと言うことか」 「そうだ。しかし連中はお前達が交渉を取り付けてくれたおかげでそれを踏み止まった。あまつさえ、信用できる相手を寄越してくれれば身柄の引き渡しにも応じると言ってくれた」 「バレットとリスキニア達が……そうか」 炎に包まれた地下で二人と接見した際は今後の関わりよりも今の戦況が大事だと言わんばかりの態度を取られ不穏な空気が立ち込めたが、こうして義理を果たす意思に変わりがないことを確認できたことに龍希は安堵した。 しかし、そのリスキニアがテルダの姉であることを考慮した途端にこの話の出来過ぎた部分が嫌でも浮かび上がった。
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