蟻穴

10/37
前へ
/934ページ
次へ
「ちょっと待てよ。リスキニアが信用できる相手なんて、そんなの決まり切ってるじゃないか」 「うむ。リスキニアは特に国軍との繋がりもない。そんな中で、国軍に向けてそのような要求をすると言うことは名指しも同然だ」 それがこのグループにテルダが所属し、尚且つ移動手段を合わせてもらうと言う好待遇を受けている理由であった。リスキニア達が捕らえた脱獄犯らを確実に回収できる唯一の人材であり、もしそれに成功すれば組織的に匿われていた脱獄犯の大部分は牢に戻ることになるため大手柄となることは間違いない。 ここまでの段階であれば、恩赦を稼ぐために手柄を欲していたテルダに千載一遇のチャンスが訪れたと言うだけの話に収まる。しかし、現場に居合わせていた龍希達はこの騒動の最も重要な部分を知っていた。 (そうか……テルダの奴、とんでもないことをやりやがったな。何でリスキニアが軽率と言えるくらい迅速に動いたのか、その理由がやっと分かった) それは地下街のマーケットに匿われている大量の脱獄犯がいるとリークしたのはテルダであり、言うまでもなくそれが原因で襲撃事件が引き起こされたと言う事実である。襲撃事件の後始末をテルダが引き受けている現状は、それを知る龍希達から見れば仕組まれた流れであることは明らかであった。 以前リスキニアは、度重なる争いで疲弊し数を減らした炎の貴族達は一人一人が掛け替えのない希少な人材であり、だからこそ団結することができたのだと言っていた。そんな背景がありながら派手な戦闘が予想される地下街への襲撃を下準備もなく即決できる理由となり得る人物がいるとすれば、同じく掛け替えのない弟であるテルダ以外は在り得ない。 龍希達や国軍の加勢を許せば、捉えた脱獄犯を全員連れ去るなどと言う横暴は通せない。テルダへの贈り物を用意するためには、何としてでも自分達が戦果を独占しなければならなかったのである。
/934ページ

最初のコメントを投稿しよう!

224人が本棚に入れています
本棚に追加