蟻穴

14/37
前へ
/934ページ
次へ
互いに譲れぬ思惑がぶつかり合う押し問答にも、ようやく一区切りのタイミングが訪れた。戻って来た見張りの兵は、テルダを連れて来てくれた部分を考慮し国軍が拠点に立ち入ることを許可した。しかし、全てが思い通りと言うわけにもいかなかった。 「俺の先導で案内するが、その前に一つ確認事だ」 朗報を持って帰って来た兵は龍希とブランクを指差し、リーダーはに尋ねた。 「そいつ等は国軍の一員として此処に着いて来たのか?」 「いいえ。勝手に合流して来ただけです。我々が連れて来たわけではありません」 (まあ、流石にそこは誤魔化しちゃもらえないか) 「ならその二人にはお引き取り願おう」 「構いませんよ」 「えっ」 あっさりと切り捨てられた龍希は素っ頓狂な声を上げた。テルダの頼みを盾に隊列に加わったが、いくらテルダでもここまで来て「龍希達と一緒でなければリスキニア達とは再会しない」と喚いてやっと開けた道を閉ざすような真似まではできないことを見透かされていた。 「何で俺達は付いて行っちゃダメなんだよ。今更警戒されるなんて心外じゃないか」 「お前達は道が一緒だから共に来たと言うだけで、国軍とは別の陣営だろう」 「それは、そうだけど」 「別々のゲストを同時に招いて相手をするような余裕は今の我々にはない。そして国軍の頭数として参加するなら先程の発言と矛盾する。お前達は確かに見知った相手で、その実力も分かっている。だからこそだ」 (しまった、あれはそう言う意味も含まれてたのか……!) 今の龍希とブランクには炎の国の貴族が束になっても敵わないため、リスキニア達が龍希達を国軍の一員として招き入れる筈がない。つまり隊列を率いるリーダーがリスキニア達を説得するために口にした「戦力をギリギリまで絞った」と言う発言は龍希とブランクを含んでいないことが前提条件であり、それを元に了承が行われた時点で手遅れである。 リーダーは特別扱いのテルダを盾にする龍希のやり口に流されていたように見せかけて、重要な場から二人を排除することには確りと成功していた。言葉巧みに真意を隠し、反論するタイミングすら掴ませず自分を切り捨てたその手腕に龍希は舌を巻いた。
/934ページ

最初のコメントを投稿しよう!

224人が本棚に入れています
本棚に追加