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「こうなった以上は仕方がない。辛抱強く待つだけだ」
龍希はその場に座り込み、腕を組んだ。
「此処で待つのか。一旦引き返せば良いだろう。お前に居座られると見張りのこっちまで待たされることになるんだぞ」
「それは災難だったな。だけど俺達には時間が無いんだ。そっちが立ち入っても良いと思ってるギリギリの場所から動くつもりはない。仲間の命が掛かってるんだ」
「……何があったんだ」
龍希の態度を訝しんだ見張り役だったが、仲間と言うワードには強く反応した。内外問わず争いを重ね、憫然たる状況になってようやく団結力を得た炎の貴族達にとって仲間は多くの犠牲を払って得た何より価値のあるものである。それが危機的状況にあると言う龍希の言葉を聞いて、ようやく話を聞くつもりになった。
「リスキニア達と対立してる殺し屋の組織があるだろ」
「シノバズか。お前達も関わりがあったとはな」
「そこの手先に仲間が攫われたんだ。しかも身体が変異した不安定な状況でな。どんな惨たらしい実験をされるか分かったものじゃない。一刻も早く取り戻さないといけないんだ」
「まさか、その協力を俺達に仰ぐためにお前は此処に来たのか?」
「そうだよ。あれだけド派手に大捕り物やったんなら、今までの分と合わせてそれなりに情報は集まったんじゃないのか。アジトから調べ立てたんじゃ時間がいくらあっても足りない。貴族だろうが国軍だろうが頼める相手には全部頼むつもりだ」
「ああ、それは……どうだろうな」
何かを隠しているような口ぶりだったが、龍希は焦れて問い質すようなことはしなかった。団結を重視している以上、メンバーの一人が重要な情報を口走るわけにはいかないと言う背景を理解しているからである。
しかしその何かを伝えたがっている態度から、待てば海路の日和ありと龍希は確信した。
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