蟻穴

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「世界を閉ざす、だと……?」 貴族は複雑な表情であった。 当初に抱いたブランクの価値観に賛同できずとも称えようと言う心持ちと、シノバズに抗う自分達の価値観を否定するような言葉は聞き捨てならなと言うプライドが鬩ぎ合っていた。 「他人を殺せばそいつとの縁は切れる。仮に人付き合いを世界と呼ぶならば、確かに縮みはするだろう。閉じもするだろう。だが自分に害を及ぼす『世界』を切り捨てて何が悪い。黙って飲まれろとでも言うつもりか」 「そうは言わない。抗うな等とも言わない。だが、それでも、我は……あの時ルゴールドを殺さなくて良かったと思っている。あのルゴールド・グランエルをだ」 ルゴールドの手によって多くの命が失われた。その中にはボルトガードを始めとして、ブランクに縁のある者も含まれていた。貴族の価値観で測ればルゴールドはブランクにとって害を与える者であり、ルゴールドの世界と自分達の世界を切り離すのは自衛として当然の行為である。 しかし龍希はそうしなかった。ブランクもその判断を信じて従った。その結果として在る今をブランクは後悔していなかった。 ルゴールドの肩を持ったことでグルガンを失い、この先も同じようなことが起こる可能性は否定できない。それでも、龍希と言う最愛の相手を失わなかったのはルゴールドと同じ世界で繋がり続けていたからである。 「ならば問おう。もしもお前が我々の立場なら、殺し屋達の命は奪わないと言うのか」 「……先程も言ったが、掛け替えのないものを守るためなら真っ向から争うだろう。正に今がそうだ。しかし、叶うのなら誰の命も奪いたくはない。殺さずとも組織を潰すことはできる。そのために国軍や司法があるのではないのか?」 「綺麗事を……!」 その時、リスキニア達の本拠地となっている火山の方面から大きな爆発音が鳴り響いた。
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