蟻穴

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時は僅かに龍希が国軍の去った後を呆然と眺めている頃まで遡り、その国軍一行はリスキニア達の本拠地である火山に設けられた拠点に足を踏み入れた。 「悪いな」 「いえ、このくらいお安い御用です」 テルダは自分を背負ってここまで飛んでくれた貴族に礼を述べた。本来であればこのように飛べる者がテルダを運べばわざわざ全員で歩く必要はないが、この世界においてそれはご法度とされている。 表向きは落下時の危険性を考慮したものとして扱われているが、真の理由は翼を持たざる者の自尊心を著しく傷付けるためであった。況してや、自身の過ちが元とは言え後天的に翼を失っているテルダに空の景色を見せることは相当な覚悟が必要となる。少なくとも、リスキニアとの交渉に出向いてもらうべく忖度をするのであればテルダを背負うよりも歩こうと考えるのが当然の流れであった。 国軍側のメンバーで唯一テルダを背負えるほどの間柄を築いているのはジアだが、囚人の枷により魔力を封じられた状態で身体的ハンデまで背負えば何かあった時にテルダを護ることが不可能となるため辞退していた。 そのような経緯があり、結局テルダが空路で移動したのは顔なじみの炎の貴族が名乗り出てからであった。 「テルダ、暫くぶりだな。元気にしてたか」 「ああ。何とかチャンスを掴んで頑張ってるよ」 「そうか……良かった」 血を分けた姉弟だが、今二人は違う陣営に立っている。リスキニアは抱き合って再会の感動を分かち合いたい気持ちを押し殺し、テルダとの挨拶は最低限のものに留めた。そしてそのまま国軍側のリーダーと相対し言葉を交わした。 「もう宜しいのですか。我々への遠慮は不要ですよ。寧ろそこまで淡白にされると連れて来た甲斐がありません」 「その余計な気遣いこそ不要だ。さっさと本題に移るぞ」
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