蟻穴

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リスキニアの指示により、意識の無い脱獄犯が米俵のように国軍の隊列の前に並べられた。続いて国軍側のリーダーの指示により、それらの状態が一斉に調べられた。 「この輩は全て魔法で眠らせてあるようですが、どれくらい前からその状態にしてあるのですか?」 「詳しくは分からないな。情報を絞ったら眠らせてを手当たり次第に繰り返した」 「では早めの順番だった者は、もしかしたら目覚めていて不意を突く機会を伺っているかもしれないと言うことですね」 「……枷を嵌められている以上そんなことをしても無意味だと思っているがな」 「まあ、戦力を整えて伺った甲斐はあったと言うことでしょうかね」 国軍側の粗探しのような口調にリスキニアは眉を顰めるが、会話の淀みとは裏腹に確認はスムーズに進行した。その結果全員が安定した昏睡状態にあり転送の魔法陣で国外に運び出す手筈が整えられた。 「何はともあれ無事に済みそうで何よりです。テルダさんの姉であればこう言う格式ばったものは好きじゃないとは思いますが、こちらも仕事ですので」 リーダーはそう言いながら後ろ向けた人差し指を何度か曲げて部下の一人を呼び寄せた。そして受け取った結晶石の石板を大袈裟に構え、そこに刻まれた文字を読み上げる。 「代表者、リスキニア・リフォール。並びに貴族の方々……」 「感謝状の類は不要だ。何か贈呈するものがあるのならテルダに渡しておいてくれ」 「まあまあ。仕事だと言っているじゃないですか。人助けだと思って、一応最後までやらせて下さいよ」 面倒な儀礼を省こうとするリスキニアをやんわりと部下に制止させ、少し距離を置いた場所からその続きを読み上げた。 どう取り繕おうと、結局のところこの世界で最大の権威を持つ国軍から面と向かって謝礼を受けるのは名誉なことである。他の貴族はリスキニアに倣って煩わしがるような態度を取りつつ、どこか満更でもなさそうな様子であった。
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