蟻穴

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「過剰防衛、誘拐、拷問、並びに殺人行為……」 現在の日時や場所、当たり障りのない情報を述べ終えたリーダーが突如物騒な言葉を並べ始めた。それは明らかに貴族達が期待していた称賛の言葉ではなく、罪状の羅列である。その言葉を本来投げ掛けられるであろう脱獄犯はもうこの場にはいない。 「貴様等、まさか……!」 「姉さん逃げろ!!!」 「以上を以て、お前達を拘束する」 テルダの感じていた寒気が、ようやくリスキニア達にも伝播した。それと同時にリーダーの『仕事』も終わり、待機していた国軍の群れが一斉に動き出した。 「何をそんなに驚いているのか。人を殺したら捕まって裁かれるのは当たり前のことですよ。相手が罪人なら許されるとでも?」 「それは……」 まるで台風の目のように、周囲の乱闘から切り離された奇妙な静寂の中でリーダーはリスキニアを窘めた。 「此処に来た時、確信しました。見張り役と違ってお前達は我々に気を許していましたね。殺人行為を重ねても尚、ダークヒーロー気取りでどこか自分達の功績は称賛されるべきものなのだと甘ったれた考えを手放せない。おめでたい連中ですよ」 「あたし達が動いているのは貴様等国軍がいつまでもシノバズを野放しにしているからだろうが!肝心な時に何もできないくせに、偉そうなことを……!」 「偉そうなんじゃありません偉いんです。今も昔も、公に誰かを殺して良いのは我々国軍だけですから」 「ほざくな!」 リスキニアは吼えながら炎を放ったが、リーダーの作り出した水の壁に容易く阻まれた。またリーダーだけではなく、この場に集められた国軍のほぼ全てが炎の貴族に相性で勝る水の属性のドラゴンである。 そしてテルダを背負って移動しなかった本当の理由は、テルダに隊列全体を見渡す機会を作らせないためであった。
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