蟻穴

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リスキニアは組織のトップとして多くの命を預かっていると言う自覚と誇りがある。それは燃え上がるような憎しみと怒りに確りと勝っていた。 そして冷静に周囲の状況を確認し、このまま戦いを続けることはできないと判断した。 (ダメだ。コイツ等を退けることはできない……!) 元々貴族にとって鍛錬は己の力を周囲に誇示して威厳を保つことが目的であり、戦闘力はあくまで副産物である。組織を立ち上げてからは生き残るためのものにシフトしたものの、初めから生き死にの戦いに備えて長年の訓練を積んでいた国軍の兵士には敵わない。そこに属性の不利も合わさり、この場にいる貴族の総力を結集させてもこの戦いに勝利することは不可能だと言う結論に達した。 加えて、多少の勝機があったとしてもここで大きな損害を出せば本懐を遂げることは不可能になる。そして更なる仮定としてこの戦いに勝利できたとしても、国軍には更なる追手を出してくるため無意味である。 つまりこの戦いは、挑まれたその瞬間からリスキニア達にとっての負け戦であることは決まっていた。 「撤収だ!殿(しんがり)はあたしがやる、一人でも多くこの場から逃げるんだ!この場所に……いや、この国にさえも未練は残すな。何としてでも生き延びろ!」 リスキニアは出せる限りの大声で撤収命令を周囲に伝えた。それを聞いた貴族は予め準備されていた経路から脱出を開始し、バレットを始めとする何人かの先鋭はその背を護るために一つのラインを形成した。 「くそっ、聞いてねえぞ!どうしてこんなことに……!!」 そして炎の国に入るための入場券として利用されたと知って愕然とするテルダは、戦場の真ん中で完全に『迷子』になってしまっていた。
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