蟻穴

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テルダには確信があった。今この場においての身の振り方一つで、今後の自分の人生の全てが決まる。 (俺は罪人だ。此処で国軍に反旗を翻せば、今度と言う今度こそ終わりになる。もう一生牢からは出られないだろう……) 幸か不幸か、テルダは今罪人の刻印によって魔法を封印された状態となっており、再び魔法を使うにはルゴールドのように腕輪を預けられる主を見付けなくてはならない。力なきテルダは国軍に与して炎の貴族を捕らえることは期待されておらず、戦いに巻き込まれぬよう逃げ回っているのが当然の振る舞いである。また特例で釈放されていることを考えれば国軍に逆らえないテルダをリスキニアが責めるとは考えられない。 しかしこのまま傍観を続ければ最終的に自分が帰るのは国軍の旗の下である。それに追われる立場となってしまったリスキニアとは二度と会えないことを覚悟しなければならなず、次に会うことがあるとすれば、自分と入れ違いか自分と揃って牢に入るその瞬間だけである。 真っ当な道を捨て去りリスキニアに付いて行くか、私情を押し殺して贖罪に徹するのか。テルダはこの目まぐるい戦禍の中で十分な時間すら与えてもらえない中で重大な決断を迫られた。 「テルダ、現を抜かすな!」 「っ!」 過去を考え未来を想い、意識が現在から離れかける寸前、同じく魔法を封印された状態のジアが勢い良くテルダに突っ込み自分の体ごと壁の方まで一気に飛ばした。 「何しやがるんだ、攻撃なんて来てなかっただろ……!」 上体を起こして抗議しようとするテルダの鼻先にジアは指を軽く押し当てた。これは二人の間で通じる「余計なことを喋るな」と言うサインである。
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