蟻穴

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「俺は……」 テルダは一瞬俯いたが、リスキニアが追われる身となった今となっては国軍の中にリフォール家の者としての居場所はないと見切りを付けた。そして何より、これまでマキナ家と言う色眼鏡で見てきたエルゼのことを信用できるようになっていたことも大きかった。 ギランハーツが肩書きを盾にどれだけ息巻こうと、この贖罪の方法は龍王であるエルゼが自ら発案したものである。最後の最後、テルダの行いが問い質される時が来たとしても必ずエルゼは取り零さずに立ち会ってくれる。そしてこれまでの状況を説明して真摯に訴えれば必ず聞き入れてくれると言う信用が最後にテルダの背を押した。 「俺は、これが世界の平和を護る組織の行いだとは認めない。俺は今度こそ俺自身の正義を信じて、姉さんを助ける。ジア、そのための力を貸してくれ……!」 テルダは差し出された手を握り、ジアがそうしたように自らの手首に付けられていたリングをジアに移動させる。これによってジアはテルダの主に、そしてテルダはジアの主となった。 「さあ、反撃の狼煙を上げるぞテルダ」 ジアの瞳の中にキューブの模様が回転し、この戦場における水の全てを支配下に置いた。そして間髪入れずにリスキニア達に向けて飛来していた水の槍のコントロールを奪い、空中で反転させて打ち返した。その切っ先はリーダーの不意を突き、頬を掠めて壁に突き刺さった。 「前科者の分際で、裏切るつもりか……!」 のらりくらりと余裕を保っていたリーダーの表情が豹変し、語気に憎しみが籠る。しかしテルダ達は動じることなく、リスキニアの側に立って軍勢と向かい合った。 「俺の信じる正義を先に裏切ったのはそっちだ。俺が外に出たのは、誰しもが平等にできる服役なんかじゃなく自分の信じるやり方で罪を償うことを許されたからだ。お前らの道具になるためじゃねえ!」
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