蟻穴

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「そうか。なら今度こそ穴倉に帰ると良い。元より貴様等は用済みだ」 「お前が最後の上司で良かったよ。思い返せば、俺が国軍やってた頃の上層部は全員倫理観が終わってる連中ばっかだったな。一昔前にいたバニアスって奴が一番マシだった」 テルダは久々の魔法に身体を躍動させながら炎を放つが、当然リーダーは水の壁を作り上げて遮断する。しかしテルダの炎は本来相性により通用する筈の無いその壁を貫通した。 「なに……!?」 「あんまり分厚くすると視界が塞がるから、壁は最低限スマートにと訓練されるのは知ってるぜ。炎を防ぐならそのくらいの厚みで十分だろうな。『炎』を防ぐだけなら、な」 リーダーは観察眼にも長けており、テルダがジアと腕輪を交換することで互いに契約し、魔法を使えるようになったことは見抜いていた。 しかし、囚人同士でそもそも腕輪を交換できるシステムが示す本当の意味までは理解が及んでいなかった。 (囚人用のシステムなんだ。囚人同士で魔法が使えるようになっちまうような、こんな抜け道が本来残されてる筈がねえ。これはもう、やれるものならやってみろってことなんだ) テルダは龍希達と接する内に、ドラゴンの世界でわざわざ指輪を交換して婚約を交わしているのが龍希とブランク以外に殆ど見たことがないと言うことを強く意識するようになっていた。 指輪を相手に預けると言うことは、相手と命を共有すると言うことである。これは比喩ではなく魔法によって実現される本物の制約であり、指輪を預けた相手が天寿を全うせずに死亡すると元の持ち主も同じ運命を辿る。ドラゴンの世界において、この理不尽な理(ことわり)を愛と言う言葉だけで受け入れることができる者はいない。 これは、腕輪においても同じことである。
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