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テルダ達が仕掛けたトリックは至って単純で、国軍達が炎だと認識したものは炎ではなかったと言うものである。
水を支配して操るだけではなく、その水に着色を施すことによってあらゆるオブジェクトに仕立てることができるジア固有の魔法により、圧縮された水流は紅蓮の色と共に新たな姿が与えられた。それがリーダーが炎だと誤解して防ぎにかかったものである。
水の壁は薄くとも炎を防ぐことは容易いが、同等以上の水流ともなれば同じようにはいかない。テルダのフェイクの動作に合わせて放たれたジアの水流が国軍の壁を抉じ開け、そこに満を持してテルダが火炎を叩き込んだ。
「きっ、貴様!」
水属性のドラゴンの皮膚は熱に耐性があるが、目や口と言った粘膜組織へのダメージは避けられないためリーダー思わず顔を背ける。
「今だ、隊列を分断するぞ!」
その隙を突き、リスキニアはこれまで絶え間なく壁を張られていたことで近付けなかった隊列の懐まで一気に潜り込んだ。一見自分から囲まれに行ったようにも見えるが、この状況でリスキニアを攻撃する場合は対角線上の味方に当たらないようにしなければならないため殺傷力の高いものが使えない。更に火炎を撒き散らして暴れ、隊列を乱すには絶好のチャンスであった。
「バカな、こんな奴等に戦況を……!」
リーダーは反乱の危険性を見落としていたわけではなく、ジアの能力についても事前に把握することができていた。しかしテルダとの鮮やかな連携はその警戒を上回っていた。
当然ながら二人が魔法を使うのは牢獄を出て以降では今この瞬間が初めてであり、加えて戦場で体を動かす機会すらまともに与えられて来なかった。そんな状況で目配せや声掛けなどを一切行わず、完璧な以心伝心のみで先程の連携をこなせることを国軍側は予想できなかった。
他者に命を委ねるリングの譲渡が、愚行でなければ一体何を示しているのかを読み取ることができなかったのである。
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