蟻穴

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「言った筈だ。もう遅いってな」 逃げるリスキニアとそれを追うリーダーの頭上にある天井が崩落し、そこからも溶岩が噴出した。重力に逆らって噴き上がる地面からのものとは逆に、天井から来る溶岩は落下の速度がそのまま加算されるためその勢いは非常に強いものとなる。もし直接浴びれば水の鎧は剝ぎ取られ、間違いなく命を落とす。但し命の危険は魔法を使ったリスキニアと言えども例外ではない。 「手遅れは貴様も同じだ。この距離ではどう足掻こうと向こうまでは辿り着けない!」 溶岩の落下範囲はリスキニアの逃げようとしている方向の僅かに先まで及んでおり、魔法を発動させる猶予もない。このまま進めば両者共に飲み込まれこの洞窟の一部となることは明らかである。 リスキニアが先に引き返せばリーダーに捕獲され、リーダーが先に引き返せば最後の手柄を取り逃がす。一刻も早く進路を変えなくてはならないが、それは相手より先であってはならない。先に逃げた方が安全だが後から逃げた相手が助かった場合は引き際を見誤ったと言うことであり、それは即ち敗北を意味する。 加えて今回はリスキニアが先行しているため、お互いに限界を見極めることができると仮定すればどうしてもリスキニアが先に引き返さなければならない。それを理解しているリーダーはただリスキニアが自分から網に入るのを待てば良いと言う構えだった。 しかし、リスキニアは一向に引き返す仕草を見せず遂にリーダーが判断するデッドラインを踏み越えた。 (血迷ったか。或いは一か八かで溶岩の中を突っ切るつもりか。どちだにせよそんな酔狂な真似に道連れを食らうわけにはいかない……!) ならば一人で死ぬが良いと、リーダーはリスキニアを見送ってバックした。
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