蟻穴

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リスキニアの体が溶岩の中に完全に埋まり紅蓮の飛沫が辺りに弾けた。しかし、血肉が焼ける音や水蒸気は一向に上がらない。その飛沫が水の鎧に接触し、静かに同化した様子を見てリーダーは再びジアにしてやられたことを知った。 「これも、水か……」 天井を突き破って落下してきた溶岩は全て、ジアが着色してそうであるかのように見せ掛けた水流であった。リスキニアが切り込んで注意を引き付けた隙に、国軍の兵士達が魔法で打ち出し地面に撒かれていた水を結集させて天井まで移動させていた。 「あばよ。言っておくが次のは本物だ。無理に突っ込まない方が身のためだぜ。ここまで連れて来てもらった恩はこの忠告でチャラってことで頼む」 水流が落ち切り、再び天井から溶岩が降り注ぐまでの僅かな切れ間にテルダはそう告げて洞窟の奥に姿を消そうと背を向ける。 「愚かな……まだ、気が付かないのか」 「……」 「振り向くな、テルダ」 「分かってる」 後数秒もすれば、溶岩の濁流が洞窟を崩壊させ全てが消え去る。国軍が自分達を追うことは不可能になるが、即ちテルダ達が引き返すこともできない。リーダーが最後に残した言葉の真相もまた闇の中に消える。自分達を惑わせる捨て台詞だと決め付け、脱出に専念する他はなかった。 「姉さん。このトンネルは何処に通じてるんだ」 「家だ」 「い、家って?」 「あたし達の家だ」 「……!」 貴族の身分を追われたリフォール家は、一度平民の国に済みながらもその居心地の悪さから定住することができず炎の国の隅に密かに暮らしていたと言う経緯を持っている。リスキニアはその負い目を恥ずべきものとは考えず、このような有事の際に避難できる拠り所として確保していた。
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