蟻穴

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「後ろは!」 「完全に溶岩で塞がった。追手も来ていない」 「よーし、あたし達も先に行った仲間を追い掛けるぞ!」 バレットとリスキニアが音頭を取り、一行はアリの巣のように入り組んだ地下通路を迷いなく突き進んだ。その中でも非常用の脱出経路は一際細く作られており、左右の壁には燃やして灯り代わりとするためのロープが腰の高さにある溝にそれぞれ一本だけ埋め込まれている。 「どうやら無事に進めてるみたいだな」 二本あるロープの内、左側には既に燃えておりその勢いは大分弱まっていた。これは少し前にリスキニア達が殿を引き受けて逃がした貴族達がここを通ったことを示しており、バレットはもう片方のロープに火を点けた。 「さあ、走れ走れ。俺達の無事をあいつらに伝えてくれ」 炎は油の沁み込んだロープの上を駆け、暗闇の奥まで瞬く間に伸びて行った。炎で仲間の面影を感じ、炎で仲間にメッセージを送る。急ごしらえながらリスキニアはこの仕組みを大層気に入っていた。 「これを置いたのはやはり正解だったなバレット」 「ああ。原始的だからこそ、揺らがない安定感みたいなものがあるな」 そんな会話を交わしながら数十分進み後から点けた炎も消えてしまうかと言う頃、通路の幅が明らかに狭まり始めた。地面には今のリスキニア達と同じように翼を壁面に擦られて落ちたと思わしき他の貴族達の羽が目立つようになってきている。テルダは何気なくその内の一つを拾い上げ、前を歩くバレットに尋ねた。 「これは出口が近いってことなのか」 「そうだ。因みに道を細くしてあるのは、使い終わった後に崩して追っ手に逃げ先を悟られないようにだ。その際はまたお前とリスキニアに協力してもらうことになる」 「それは構わないが、そもそもこんな長い通路をどうやって作ったんだ……?」
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