蟻穴

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「確かに地下の溶岩を操る俺達リフォール家の豪魔があれば、山腹に洞窟を作ることも地下を空洞化させることもできる。しかしこんなに長く綺麗な壁面を持った通路は流石に無理だ。おまけに埋め立てた後逃げ先を推理されないようにさっきから何度も曲がってる。土属性の協力者でもいない限りこんな芸当は……」 「そこまで分かってるならそのまんまだ。別にマジックやってるつもりはねえよ。有子じゃあるまいし」 「ユウコ……?」 「ああ、そう言えば名前は知らねえんだっけか。顔は一瞬合わせたと思うが自己紹介どころじゃなかったしなあ」 「いや、そんなことよりどうやって土属性の協力を取り付けたんだ。土属性の国はファードラ達に乗っ取られて、龍王に領土丸ごと時間を凍結させられていた筈だ」 「溶岩で作った空洞の形を整えたり、変えたりするくらいなら特別な魔法は必要ない。無理に貴族の世話になる必要だってないだろ」 「……!」 バレットからしてみれば何の違和感もなく出せる発想だが、今のテルダや組織結成当時の炎の貴族達には大きな衝撃を与えるものであった。 「平民の領土じゃ全ての属性のドラゴンが混ざって暮らしてる。それぞれが得意分野を活かして協力するなんて当たり前のことだ」 バレットは知り合いの土属性を頼り、その魔法とリスキニアの豪魔を掛け合わせることで組織の本拠地を手早く準備して見せた。 その行動がもたらした恩恵は物理的なものに留まらず、「目の前で属性も身分も異なるドラゴン同士が手を取り合っているのに、同じ国で暮らす自分達がどうして啀み合わなくてはならないのか」と炎の貴族達が一つに纏まる原動力となった。 この功績を通してリスキニアとバレットは結束の象徴として認められ、組織の長となったのであった。
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