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「まあ、そんな秘密基地も全部消えちまったんだがな」
バレットは哀愁の漂う表情で足を止めずに後ろを振り返った。そこには弱まった炎では照らし切れない闇があるだけで、その先にあるかつての居場所は見える筈もない。
「塞ぐのは山腹の入り口とこの通路だけなんだから、地下の空間にはどこかのタイミングで戻れたりしねえかな」
「戻れはするだろうが国軍に待ち伏せされて捕まるのが関の山だ。未練はこの道に捨てて行け」
対して先頭を歩くリスキニアはバレットに釣られて振り返ることもない。ただ前だけを見据えてロープの炎が消える前に出口まで辿り着くことだけを考えている。
リスキニアはあの居場所を誰よりも大事にしていたが、そうせざるを得ないとなれば切り捨てることに躊躇いはなかった。その理由は今登っている階段の先にある。
「戻ったぞ!」
床のタイルに偽装された蓋を押し上げて、リスキニアは先に待っていた仲間に向けて高らかにそう宣言した。戦闘の内容は明らかにリスキニア達の敗北でありこの逃亡はその結果でしかないが、それに対して憂うような様子を見せる者はいない。誰もが皆の無事を喜んでいた。今回はテルダとジアの協力もあり犠牲者を出さずに済んだことが何よりも大きかった。
「今はこれで十二分だ。あんな箱物、中身であるあたし達がいなければ何の価値もないのだからな」
「理屈は分かるが、こうも容易く割り切ることができるとは……」
自身も同じ貴族であり、貴族が起こした問題や事件にも深く関わって来たジアはその異様なムードと一体感に不気味さすら感じていた。
リスキニアにとっては掛け替えのない居住地であり、他の貴族にとってもあの施設は大切な場所であったことは確かである。本来そのようなテリトリーから暴力によって追い出されるなど屈辱の極みであるが、リスキニア達はそれを苦にする様子を全く見せない。名残惜しそうにしていたバレットですら、リスキニアの忠告を素直に聞き入れて今は未練のない表情になっていた。
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