蟻穴

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リスキニアは逃げ遅れがいないか最後にもう一度確認した後、自分達が通って来た床のパネルを戻して出入口を閉じた。そしてその周囲にある八マスのパネルを次々と剥がしては引っ繰り返すと、裏面に記された魔法陣が露わになり瞬く間に証拠隠滅の準備は完了した。 「下がってろ」 同じ気持ちであると言う確証があるからか、皆の意見を募ることなくリスキニアはその魔法陣に両手を着いて魔力を流し込む。魔法陣が輝くと共に数秒間の地鳴りが起こり、感傷に浸る間もなく作業は完了した。 それどころか、周囲の貴族はこの間にもここを新たな拠点とするに当たってどのように立て直すべきかを話し合っている。国軍が目論んでいた本拠地を潰すことによるダメージをまるで感じず、驚異的なモチベーションであった。 「不思議か?これだけ虐げられてピンピンしていられることが」 「あ、ああ……」 戸惑うジアに、バレットは居場所に対する価値観の違いだと言う答えを示した。 「俺達にとっちゃ此処も、あの洞窟も、この国そのものですら仮宿に過ぎないのさ。だから仮宿から仮宿に移ったところで悲しさや悔しさもない。戦術的撤退として割り切れる」 「そうか、羽桜龍希が言っていたな。この集まりはいずれ、この大陸を離れて新天地に旅立つのだと」 「ああ。身内贔屓だと言われるのが嫌でそんなに口にしちゃいないが、正直今のモチベーションが保ててるのは龍希のおかげだと思ってる。あいつが神獣と交渉して俺達に新しい居場所を用意すると胸を叩いてくれたからこそ、この国の領土に固執することなく動くことができる」 「その龍希なんだが、お前達に会って何か頼もうとしてたぞ」 「龍希がこっちに来てたのか……!?」 「途中まで一緒にいた。門前払いされちまったがな」 テルダは今まではそれどころではなかったため口に出せなかった龍希のことをバレットに伝えた。 「……穴閉じるの、少しばかり早かったかもしれねえな」
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