Hello World

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「どうやら目が覚めたみたいだな」 殺風景な扉が開き、一人の男が部屋に入って来た。越光はベッドの上に仁王立ちしたままそれを出迎える。 「……知的生命体は好意の無い相手に裸体を見られると恥じらいないし嫌悪感を覚えるものと思っていたが、俺の買い被り過ぎか?」 「私だって花も恥じらう乙女だ、隠せるなら隠したいさ。しかし衣服がない以上はどうしようもないだろう。入浴しているところを襲われたんだ。苦情ならあの人攫いに行っておくれよ」 「それはこんな顔をしてる奴か」 龍人の男はこめかみの辺りを指で押し上げ、独特な細い目の形を再現した。 「目の辺りは似ているが、私と友人を襲ったのはもっと口元がひん曲がっていて気色の悪いにやけ面だったよ」 「そうか、本人には後で伝えておいてやるよ。恨まれても知らねえぞ」 男は少しおどけたようなやり取りで越光の警戒心をほぐしつつ、その様子をつぶさに観察する。 (恐らく攫われたことに対する憤りの感情も持ち合わせてはいるんだろうが、それを覆い隠して釣りが来るほどに大きな好奇心がコイツの立ち振る舞いを支配している。龍人と言う俺が着込んだ物珍しさに目移りして、シーツで体を隠すことすら忘れるような異常者……成る程、ライズの野郎が有子の代わりに選んだと言うだけのことはある) ルゴールドの力を取り込んでいることも鑑みて、アッシュ・グリスタは越光に興味を持った。しかしアッシュがライズに命じたのは研究材料況してや人材の調達ではないため、越光の存在は任務失敗の象徴である。アッシュは少し前のライズが報告を行うために帰還した際のやり取りを思い返した。
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