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こうしてアッシュはライズが置き去りにして行った越光を預かることになり、たった今ファーストコンタクトを迎えている。率直に言えば傍迷惑でしかないが、越光の利用価値次第では利になり得るとも考えていた。
「ところで、私は今どのような立場なんだい?」
「攫われて、此処に捉えられている。それだけだ」
「それだけだと言うことはないだろう。誘拐は何か目的があって成されることだ。私が覚えている範囲では、もう一人の友人に感心を示しそちらを狙っていた。私にその代わりが務まるとは思えないからねえ」
「知らねえよ。アイツはマジでそう言うわけの分からないことをしでかす奴なんだ」
「それならこの際、攫われた理由についてはどうでも良いことにしよう。ズバリ君は、私に何を望んでこのような部屋を与えているんだい」
「まだ決まってねえよ」
正直に答える義理はないが、この状況ではもはや適当な理由と取り繕う方が手まであるためアッシュは投げやりにそう言った。
「俺はお前がルゴールドの血を取り込んでその能力を得たとアイツから聞いたから、様子見することにしてるだけだ。利用価値がないか、俺に害を成すと判断すれば普通に処分するさ」
「そう、か」
ライズを迷惑がるような言動と落ち着いた物腰から一縷の希望を見出していたが、最悪の末路を想起させるその言葉に背筋が凍った。越光は精一杯気丈に振舞ったつもりだったが、一糸纏わぬ姿で一挙一動を観察されている今の状況で動揺を隠すことは不可能であった。
「豪胆気取りでも、死ぬのは嫌かい」
「当然だ。私には生き延びて成し遂げたいことが沢山ある」
「それは何よりだ。その程度のまともな倫理観があれば、身の振りようはあるぜ。世の中には、屈辱を味わうくらいなら死ぬだの本懐のためには命は惜しくねえだの、生体ミサイルみたいな連中が多くてうんざりしてるんだ」
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