Hello World

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「取り敢えず、お前の生殺与奪は俺次第だってことを理解してもらえればオーケーだ。それとこれは脅し半分だが、どちらかと言えば今のお前の立場は処分寄りだ」 「……」 「まあ、お前が自分の立場を知りたがっていたから教えてやったまで。所詮は今時点の評価だから悲観することはねえさ。これからいくらでも挽回できる」 アッシュは手を伸ばし、越光の下腹部を指先で軽く突いた。それと同時に、人間と接するエルトやブランク、人間の道具を使って生活しているバニアス達は爪を丹念に削って丸めていたのだと初めて理解した。いざとなれば武器として振るう役目を手放していないアッシュのそれは、硬く鋭い刃と何ら変わりない。それが皮膚に触れて内臓の真上を陣取る恐怖は想像を遥かに上回るものであった。 指先に込められた力は僅かなものであったが、越光は対抗してこれ以上爪が深く食い込むことを避けた。押されるがままにバランスを崩し力なくベッドの上にへたり込む。 「先ずは俺に話せよ。名前を、そして生い立ちを。お前がどんな人間なのか俺に売り込んで見せろ」 越光は目の前にいる男が有子に危害を加えにやって来たライズの同胞であり、自分達の敵であることは理解している。それに向けて情報を喋ることは仲間の不利益になることも承知の上である。しかし敵意を露わにして逆らえば当然殺されてしまう。 仲間のために黙秘したいが、自分の命を守るためには口を割らなくてはならない。単純かつ原始的であるが、それ故に盤石で覆しようのない二律背反は精神を擂鉢で潰されるかのような苦痛を越光に与えた。 「……分かった」 しかし、今アッシュに喋れと言われているのは身の上の話であり龍希達の危機には直結しないように思える。 こうして誘導されながら外殻を少しずつ溶かされているとは知らず、越光は僅かに胸襟を開いた。
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