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しかし、越光はこの情報だけで優位に立てるとは考えなかった。相手は自分の命と言う唯一無二のものを握っており、有益な情報を一つ持っている程度では同じテーブルで駆け引きを行うことはできない。下手に仄めかすような真似をすれば、交渉する猶予もなく「殺されたくなければ教えろ」と言われるだけである。それどころか喉に紋章を刻むことで嘘を吐くことができなくなる魔法があることも龍希達から聞いており、不信感を抱かれただけで瞬く間に自分は生きるために仲間に迷惑を掛ける存在に成り果てる。
(やれやれ、弱いと言うのはこうも不自由で困窮なものだとはね。腕っぷしの差が幸福度に直結しない人間社会はあれでかなり慈悲深い構想だったのか……)
泣き言を溢しても事態は好転しない。越光は突破口が見出せるまで、龍希達の重要な情報は黙秘したまま辛抱強く会話を続けることにした。
「しかし、ドラゴンが人間の世界でそんなド派手な事故を起こしていたとは驚きだ。一族の連中が黙っちゃいないだろうな」
「一族、とは?」
幸運は意外にも早く訪れた。アッシュの口から一族と言う言葉が出た以上、越光が無理をして黙秘を貫く必要はなくなる。実際のところ越光も一族の存在はかなり気になっており、知らないふりをすることでアッシュから逆に情報を聞き出せないだろうかと画策した。
「人間の世界に惚れ込んで、そこで暮らすことに心血を注いでる変態集団ってところだな。ドラゴンが人間に干渉することを忌み嫌い、時には排除することも辞さない相当な規模を持った連中だ」
「つまり、気付いていないだけで私の身の回りにも人間に化けているドラゴンがいたかもしれないと言うことか。感慨深いねえ」
「そうかもしれねえな。まあ俺は奴等の活動に興味はない……が、別方面じゃ大分世話になったもんだ」
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