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アッシュに興味を持ってもらえたと言うことは、生存の可能性が上がったと言うこと。それ自体は越光にとって非常にありがたいことであるが、その興味の持たれ方が自身の想像を超えてしまっていた。
(私が一族の娘……?はは、そんなことが……)
しかし、否定できる要素は何もなかった。一族は人間の世界で暮らしたいドラゴンに対して人間としての容姿、社会的地位、戸籍までも完璧に準備することができる。そして人間として暮らすことを誓ったドラゴンは元の姿に戻ることを禁じ、例え家族相手であろうとも正体は明かさない。
龍希の父親に至ってはその鉄の掟を貫き通して死亡したとも言われており、自分の親が同じ末路を辿っていたとしても全く不思議ではない。
あの事故以来、天涯孤独の身となって不確かな今を生きることには慣れていた。いつか出会えるかもしれない。永遠に真相に辿り着けぬまま一人で死ぬのかもしれない。そんな不安の中を彷徨い続けただけに、本物のドラゴンやそれに関わる人間の仲間を見付けることができた感動はひとしおである。
「どうした。何か思う節があるのか」
「あり過ぎて、困っているところだよ」
隠し事をする余裕もなく、つい本音をそのまま口にしてしまった。もう二度と会えない親について、大きな疑問を投げ掛けられることがこれほど心を揺さぶられるとは思わなかった。
アッシュの言っていることは単なる憶測に過ぎないのか。それとも確かな知見から真実を見抜いているのか。自分の親がドラゴンであったとして、それはあの厳しくも優しい母親なのか。それとも夜中にこっそりゲームをしていたところを見逃してくれた茶目っ気のある父親なのか。
どちらかが人間ではなかった。背中にある翼を隠しながら生きていた。かもしれない。越光には今自分の胸に湧き上がっているこの感情の正体さえ分からなかった。
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