Hello World

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嗚呼、きっとこの衝動には抗えない。 越光には強い確信があった。 自分はドラゴンを見た。しかしそれは誰にも信じてもらえなかった。飛散した瓦礫が偶然そのようなシルエットを作り出したのだと事故調査委員会の誰かが言った。医者には強い精神的なショックにより記憶が歪んだことによる幻覚だと説き伏せられた。その言葉を受け入れて、ドラゴンなどいなかったのだと諦めて生きることも考えたが、どうしてもできなかった。 越光は自分が特段割り切りのできない人間だとは思っていない。胸に突き刺さった疑問を、そのままにして生きることができる人間など本来いない筈だとさえ考えていた。 (そうさ私以外の人間は、忘れたフリがほんの少し上手であるだけに過ぎない。或いは一つくらい忘れても他に沢山打ち込めるものがあるんだ。だが私にはコレしかない!人生の殆ど全てをドラゴンに、胸に突き刺さった牙を引き抜くために捧げてきたんだ。今度はまるで親知らずのように内から生えてきた牙をそのままにしておけるものか) 龍希と共に湾の底に沈んだ事故機の残骸を調査した際は、両親に関する情報は何も出てこなかった。新たな観点を手にしたところで、そこに何か劇的な進展が訪れるとも思えない。もしもこの先探るような部分が残っているのだとすれば、それは牙が生えてきた根本である我が身しかない。そしてそれを調べることができるだけの知見を持っているのは、世界広しと言えどもただ一人しか存在しない。 「この身で良ければ捧げよう。だから是非とも、私のルーツを明らかにしてもらえないだろうか」 「数秒間で何があった。何でお前が要求する側の立場になってんだ……好奇心のお化けかよ」
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