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「まあ、反抗されるよりマシってもんだ。付いて来な」
「……」
越光は案内されるがまま部屋を出て廊下に立った。窓はなく、飾りのないコンクリートの壁がどこまでも続く光景は、これまで歩んできた道とこれからも続く果てしない旅路を想起させる。
「ちょっとつかぬことを聞いても良いかな」
「どうした。出口ならねえぞ」
「いや、今更逃げようとは思わないが……その……」
どこからともなく吹いて来た生温い風に柔肌を撫でられ、越光は自分が裸であることを思い出した。またその状態で室外に出ていることも羞恥心を煽った。
「お前の裸なんざ興味ねえよ。よくもまあこの状況で恥ずかしさなんぞ感じる余裕があったもんだ」
「そう冷たいことを言わないでおくれよ。私は君に協力すると言っているんだ。モルモットではなく人間として被検体にならせて欲しいと言ってもバチは当たらないだろう。君は人間の私に興味があるのだから。それに、君の部下であるライズと言う男は有子の裸体に大変興味を示していたようだが」
「あの変態と一緒にするな」
「なら他と違うところを見せてくれたまえ。私の周囲には人間に欲情するドラゴンが多すぎてとてもではないが信用できないよ」
「生き延びる目途が立ったからって、途端にベラベラと元気なことだな。お前に信用されなかったところで何だって言うんだ。良い加減にしねえとその口縫い合わすぞ」
アッシュは心底嫌そうにしていたが、溜息を一つ吐くと部屋に戻り自らの爪で引き裂いたシーツの切れ端を越光に投げ渡した。
「適当に羽織ってな。ここには人間用の服なんざねえ」
「いやあ、感謝するよ。やはり自尊心が保てないと協力関係にも陰りが出かねないからねえ」
越光はマイペースな素振りをみせながら、シーツで顔が隠れた一瞬だけ険しい表情を浮かべた。
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