Hello World

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越光はアッシュに関する情報を事前に把握しておいて良かったと内心胸を撫で下ろした。そうでなければ気付かない内に反抗心を溶かされ、あまつさえ引き込まれていた可能性は否めない。 (聞いた通りだ。彼は口調こそ荒いが、それとは裏腹に理性的で論理的な思考をする。野蛮な手段を取る割には、そんな部下に迷惑を掛けらえているかのような態度を取って此方に親近感を覚えさせようとしてくる……正直、有子からの話を聞かなかったら私は彼を悪人とは認識できなかった。何か事情があって組織に属しているだけで、根は善人なのかもしれないとさえ錯覚していたかもしれない) しかしレピンスの話を聞く限り、そのようなことは全くあり得なと言い切れるだけの背景がアッシュには存在する。レピンスの目に代表される人体実験の数々や他国に手先を送り込み隙あらば壊滅を目論む侵略の実績など、これら全てはアッシュが主導して行ったものであり弁解の余地はない。、本来であればそんな人物を前にして裸でいることに対する羞恥を感じている場合ではないが、だからこそ越光はそう振る舞った。 (演じよう。知的好奇心に揺さぶられ、善悪を忘れる狂人を気取った滑稽な私を。拍子抜けするほど優しくされてあっさりと警戒を解き、自分の立場を忘れて献身的になってしまう愚かな私を。それが君を知らぬ者として正しい振る舞いなのだろう?) 突然示された自身のルーツを解き明かす道にのめり込もうとする気持ちも、アッシュに親しく接してみたいと思わされてしまう気持ちも越光の中に沸き上がった天然由来のものである。よってそれを身に纏い核にある警戒心を覆い隠すことは容易い。 しかしこのまま取り入るフリを続けアッシュに献身を続けた場合、身に纏った偽りの感情は徐々に溶け出し核を侵食する。越光はそれが恐ろしかった。
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