Hello World

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「此処だ。入れ」 「随分と大きな扉だねえ」 最初に自分が入れられていた部屋とは異なり、廊下を進んだ先でアッシュが開いたドアは恐らく人間の手では動かせないのではないかと言うほどに重厚な造りになっている。 越光が命じられるままにドアを潜り、その先で目にしたものは寂れた闘技場のような空間であった。そこはコンクリートが打ちっぱなしになっている廊下から地続きだが一段土が盛られており、裸足の越光は思わずそこに上がることを躊躇った。 「これは、何をするための場所なんだい」 「お前のお望み通り、研究と実験をするための場所だ」 やはり気まぐれで施設の一室を見せてくれただけで済む筈はなく、越光は観念してその丸いフィールドの中心まで歩いた。周囲は透明度の高い壁で取り囲まれ、入り口からこの場まで来るための通路はそのドーナツ状の空間の下を通る構造になっていたことに遠目から見たことで気が付いた。 「私はもっと狭い部屋で、電極だの注射針だのを付けられてガラス管の中に入るような研究室をイメージしていたよ」 「そんなものは後だ。今時点でただの人間にしか見えない奴にそんなことやったって成果は高が知れてる。研究はそれに相応しい状態に仕上げてからだ」 「仕上げるとは……?」 アッシュは外壁の一部を開いて自分だけが外側の空間に移ると、直ぐにロックして越光がコロシアム内部に取り残されるようにした。またそれと同時にこの空間と通路を繋ぐ出入口も床が閉じることで消滅し、越光は完全に閉じ込められた。 これから何が起こるのか、底知れぬ不安と恐怖に対して寄り添ってくれるのはアッシュから渡された布切れ一枚だけである。越光は身を震わせながらそれを抱き締めた。
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