Hello World

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その後、アッシュは再びパネルに触れ少し長めのコマンドを器用に打ち込んだ。最後の一打を合図に光線が四方に飛び散り、外周やドーム部を伝って最後は地面との境界線に吸い込まれる。その先に何があるのかは床に敷き詰められた土によって隠されているが、今自分が立っている地面の下に光が走った時点で恐怖により神経が過敏になっている越光にはこれから起こる出来事が想像できた。 「私に誰を紹介してくれると言うんだい……?」 その予想通り、土が正方形に持ち上がりスライドすることで新たなトンネルが越光の目の前に繋がった。そしてその出入り口は越光がここに来る際に通ったものよりも遥かに大きい。 「実験動物の余り物だ。惜しいものじゃないから遠慮なく殺してもらって構わないぞ。それと変に期待されて手を抜かれるのは面倒だから言っておくが、俺は別にお前も死んだら死んだで良いと思ってる」 「・・・・・・!」 内心最も言われたくないと思っていた言葉を的確に言い渡され、越光はいよいよ後がないことを認めざるを得なかった。これまでのやり取りでそれなりの手応えを感じたつもりになっていたが、実際にアッシュの期待を勝ち取るには程遠く、このイベントも越光にとっては生死を分かつ正念場だがアッシュにとっては押し付けられた玩具を処分するついでと言う程度のものであった。 そしてトンネルの奥から、身の毛がよだつような唸り声と爪先がコンクリートに擦れる音が徐々に近付いて来た。 「まあ、その中から生きて出られるのはどちらか片方と思ってもらえば差し支えない」 まだその相手は姿を現していなかったが、相対すれば越光に話を聞く余裕などなくなることを見越しての配慮であった。
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