Hello World

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絶望。生命の危機。そしてそれらを退けようとする強い意志が精神エネルギーに作用し、身に宿した力を何倍にも増幅させて引き出すことができる。それが龍希の今までに行ってきた覚醒の原理であり、アッシュが越光に促そうとしていたものでもある。 しかし越光はその期待に反して、全く別のルートを歩もうとしていた。 「そうだ、何も一々死にかける必要はない。魔法とは不思議なものであり、人智では到底推し量れないものだ。絶対的な方程式はないのだから、力の引き出し方を過去の例に倣う必要だって有りはしないんだ」 越光の悟った通り、魔法には大まかな傾向や原理はあれどその本質を解き明かせるものはいない。それは人の心、精神と言う不確かなものを依り代にしているからである。それが数値化できない以上、魔法にもそれを縛る法則や定理は存在しない。 「それならば、純粋な憧れで開花する力があっても良い。そうは思わないか」 それは誰に向けた問い掛けであったのか。その時、微かに風が吹いた。表の世界であれば取るに足らない自然現象であるが、外壁で密封されたこの場においては非常に大きな意味を持つ。 (やはりさっきのは、見間違いじゃなかったか……!) 不自然に巻き起こった土埃から越光と同じ風を察知したアッシュは、想像を遥かに超えた光景に苦笑いを浮かべつつそれに気圧されることなくパネルを操作した。外壁に現れた小さな四角形を二本指で広げ、顔の目の前までスライドさせる。その四角形に囲まれた領域は外壁にフィルターが掛かり、本来肉眼では捉えることができない要素を直接観察することができる。アッシュはそれを通して越光の周りに渦巻く新緑色の魔力を確認した。 そして何よりアッシュを驚かせた要因は、まだ越光が純粋な人間の姿を保っていたことである。
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