Hello World

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その異様な空気の流れを実験動物も本能で悟り、越光と一定の距離を保ちながら円弧を描くようにうろついた。 一目置くような仕草は越光に自信を持たせ、精神エネルギーは更に増幅する。遂にアッシュはフィルターを通さずとも魔力を視認できるようになり、当然越光も我が身から溢れる力をその目で見たことでイメージを確固たるものにした。 「私はずっと、ずっと……憧れていたんだ!この力に!」 その瞬間、あてもなく緩やかに渦巻いていた風は意思を持って越光に傅くかの如く上へと吹き上がり、全身に漂っていた魔力も先ほど脳裏に描いたイメージに従いハッキリとした形状を象った。 腕と脚は一回り大きな形に、そしてその先にある手足には鋭い爪が顕になった。それは目の前にいる実験動物から得た着想ではなく、それよりも遥かに昔から越光の中にあったものである。 「何だ、これは。肉体は全く変化してないのに、コイツの周囲にあるエネルギーが作り上げたこの姿はまるで……」 その背に大きな翼が二枚現れた時、アッシュの予想は確信に変わった。越光は人間の姿のまま魔力を放出したばかりか、その形状をコントロールしてドラゴンの外見を身に纏っている。 「凄い、素晴らしい、試してみたい……これが通用しないならどの道私の命はないんだ、遠慮なく行かせてもらおうじゃないか!」 全く強化されていない越光の身体能力は成人女性の平均以下であり、地面を蹴って得た勢いも非常に弱々しい。しかし一瞬だけ浮き上がった足の裏に風が入り込み、体を宙に浮かせて急激に加速させた。 その先にいる実験動物は今まで緊張感を保ったまま慎重に観察を続けていただけのことはあり、越光の急襲に不意を打たれることなく爪を突き出して迎撃の姿勢を取った。
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