Hello World

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ドラゴンの血を注入され、その身体を狂暴に発達させた実験動物の鋭い爪。そしてドラゴンの血を自ら受け入れ、その精神に全てを注ぎ込んだ越光の実体なき爪。両者が今正にぶつかる瞬間であった。 最初の一発で全てが決まる。体と心、どちらの爪が弾かれるのか。その結果はそのままこの対決の勝敗になるとアッシュは予想した。 「まあ、そうなるわな」 越光が腰を抜かして偶然爪を避けた時、既に風は吹いておりそれが爪の軌道を上向きに反らせていた。それを見ていたアッシュにとって勝敗すらも予想することは容易く、更にその予想が目の前で現実に姿を変えたことで改めて越光の異常な能力に興味を持った。 「ハハハハッ!どうやらこの生存競争は私の勝ちみたいだ!」 (弾かれて吹っ飛んだ相手を直ぐに追い掛けずに観察する。テンションはおかしいが言語能力もちゃんと残ってる。これまでのサンプルとは全く違う傾向を示してるな。龍の血を取り込んだ人間はそれを制御する指輪がない場合暴走する筈だが……) 力比べに勝利した越光はその結果に満足し、次は別の手段で自分の能力を試すことにした。 勢いを付けて両手の掌を体の前に突き出し、それと同時に身に纏わせていたエネルギーの一部を込めて打ち出す。腕が空を切ったことで生み出された僅かな気流は何千倍にも増幅され、豪風と化して標的に襲い掛かった。実験動物は爪を地面に突き立てて抵抗したが、あえなく吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。 その様を見て、越光の高揚はいよいよ理性で抑え込めない程の昂りとなる。 「これが魔法……これが、私の力ッ……!」 天を仰ぎ自らの力で巻き起こした風を身に受ける越光の姿は自信に満ち溢れており、自身もまた実験動物の一員であると言うことをまるで感じさせなかった。
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