Hello World

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「痛ましい死に様は善性に働き掛け、精神エネルギーの勢いを失わせる。それに対抗すべく俺達ドラゴンの精神はより強靭に、そして残虐に進化していったとされている。弱者に同情しない傲慢さが善性を麻痺させることで、ブレない心を振るってあらゆる生物を叩きのめすことができる。それが俺達ドラゴンだ」 アッシュは明らかに絶命している実験動物に念押しと託けて何度も追い打ちを掛けている越光を見てそう言った。越光は未だに人間の姿を綺麗に保っており、言語能力を失うほどの暴走はしていない。しかし龍の血に飲まれていることは明らかである。 「その体一つで飛行機を墜とし何百人という人間をゴミクズのように殺しておいて、私のことは優しく包んで絶体絶命の瞬間からいとも簡単に救い出してみせた。私はそんな理不尽で自分勝手なドラゴンと言う存在を心底妬恨めしく思っていたよ!だが私のような人間が歯向かったところで、そんな強大な相手に敵う筈もない!!だから憧れたと言うことにしていた!人間には人間の強さがあると言う皆の信条は大いに支えになったよ!だが、思い出した!!」 もう一度生命の危機に陥ったことで越光ははっきりと思い出した。人間の優しさや繋がりなど、一人きりになってしまえば何の役にも立たない。自分があの時本当に欲しかったものは志を共にする仲間ではなく、自分一人で生きていける力。そして自分の手で家族を助け出せるだけの力であった。 「もしもあの時この翼があれば、父さんや母さんを助けられたかなあ!!?」 「いよいよ気が狂ってきやがったな。やはりさっき立てた仮説は正しそうだ」 ドラゴンの血を取り込んだ生物は肉体が脳ごと変異し狂暴化する。しかし越光はそうならなかった。ドラゴンの血を肉体にフィードバックせず、精神にその全てを注ぎ込んだ。 そうであれば、肉体の代わりに蝕まれるものは明らかである。
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