Hello World

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「派手にやったなあ。まさかここまでの結果が出せるとは思ってなかった。やるじゃねえか。人間の可能性とやらを十分に見せてもらったぜ」 絶命した後も越光が己の力を確かめるためのサンドバッグにされ、もはや原型を留めていない肉塊を眺めながらアッシュは実験の終了を決めた。 通常とは異なる方向性を持った龍化が存在すると言う情報を手に入れ、更にそれがもたらす能力の向上やリスクについても詳しい記録を取ることができた。処分ついでの気まぐれで行った実験にしては嬉しい誤算と言えるほどの収穫であり、アッシュは大いに満足して越光を称える。 それはあくまで目の前に転がっている死体から実験動物の座を譲り受けたことに対するものでしかないが、どんな立場であろうと生存を勝ち取ったことには変わりなく、越光は嘲られていると知りながら甘んじてそれを受け入れた。 「お前のソレ、解除はできるのか?」 「やってみるよ」 越光は全身の力を抜いて目を瞑り、咳き込む寸前まで肺の空気を出し切った。その状態で身に纏っているものを霧散させるイメージを抱くと、一瞬眠気のような感覚に襲われ大きくガクリと頭が一度揺れた。 「おっ……と」 ステップを踏んでバランスを取り直す頃には明確に寒さを感じるようになっており、目を開けるとすっかり裸一貫になっていた。しかしアッシュは何の戦闘能力も持っていない越光を壁越しに観察するだけで近寄ろうとはしない。 「……」 越光は身を隠すこともなく、何のアクションも起こさないアッシュに対して語り掛けることもなく、ただ両手を握り締めて俯いていた。その状態で目を僅かに持ち上げると、上瞼で半分潰れた視界の先に真っ赤な肉塊が転がっている。 一つの命を自らの手でこの形に変えたと言う事実が正気に戻った越光の精神に重く伸し掛かった。
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