Hello World

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湯上りに気化熱で体が冷えるように、高揚感が解けた越光の心は冷え切っていた。ライズに抗った時のように我を忘れて暴走したのであればこれほどまでに思い悩む必要はない。意識も思考もはっきりと維持できてしまっていたが故に、越光は先ほどまでの自分の振る舞いが恐ろしくてしかたがなかった。 無抵抗どころか死してもなお攻撃を加え続けた残虐性に加えて、家族を奪ったドラゴンを恨んでいた、本当に欲しかったのは仲間ではなく力だと口走ったことも心を妖しく揺さぶる。今までそんなことを思ったことはなかった。しかしもしかすると、意識の底に押し込んでいただけかもしれないと早くも考え始めていた。 「火のない所に煙は立たぬ、なんて慣用句がお前の世界にはあるよな」 「……!」 その動揺を見逃さず、アッシュは振り子を更に大きく揺らすべく壁越しに声を掛けた。 「俺達の世界じゃ使わない表現だ。魔法で煙くらい幾らでも出せるしな。無から有だって生まれる」 「あの時の私の言葉も、何もないところから湧いて出たものだと言うのかい」 「お前の内心なんざ知ったことじゃねえが、家族が死んだんなら恨んだっておかしくはないと思うけどな。自分一人だけ助けてもらったんだからチャラなんて、いくら人間とは言えお人よしが過ぎるぜ」 「だが、今までそんなことは考えなかった」 「お前が上り詰めたんだよ。そう言うステージまで」 「ステージだって……?」 「存在するはずのない生物が目の前に突然現れて、ワケの分からないことが立て続けに起こった。全てが過ぎ去って思うことは、あの時の光景は一体何だったのか、もう一度確かめてみたい、それだけだ。恨みの感情を向けられるような領域にドラゴンはいなかった。形のない災害みたいなもんだ」 「だが、今は違う」 「だろう?」
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