Hello World

27/29
前へ
/933ページ
次へ
この数週間の出来事は越光の価値観を大きく変えた。越光は龍希達と出会ったことでドラゴンと関わりを持つ多くの人間を、そしてブランクを始めとした人間に友好的な多くのドラゴンがいることを知った。ドラゴンと言う生物は幼き日の微かな記憶だけが手掛かりとなる朧気な存在ではなくなった。 そして然るべき流れとして、文明を持つ生命としてリアリティを得たことで属性や扱える魔法などの個体差にも意識が向くようになる。更に踏み込めば敵味方や善悪と言った自分にとっての利害にも思考が及び、そうなればドラゴンであると言うだけで無条件の憧れを向けることもなくなる。 幻に手を伸ばさなくとも、身近な場所に憧れるような力は溢れている。そして遂に、その力も我が物となった。 「もう、お前にはドラゴンをドラゴンであることを理由に受け入れようと言う気持ちが残ってないのさ。自分の家族を殺した奴を、同じ世界にいる仇として見ることができるようになった」 「……」 何の反論も出て来なかった。過去の感情も、ドラゴンを恨んだことはないと言う言い分も否定することなく、越光が特別な存在と触れ合い価値観が変わったことを確りと指摘された。アッシュがどのような立場の人物であったとしても、それを盾にこれまでの言葉を退けることはできないと言うことを認めるしかなかった。 「誰が言おうと、正しいことは正しいんだぜ。俺のことは信用しなくても構わないが、自分の素直な気持ちは信じてやった方が良い」 「素直な、気持ち……私は……ッ!!?」 越光その言葉に従い掛けた瞬間、胸の奥が激しく痛み立っていることができなくなった。それは明らかに物理的でなはく精神的なものであるが、意識の壁を乗り越え脳を誤動作させる威力を持った想像を絶する幻痛である。 その幻が体内で手を広げ、心臓を何度も握り潰した。
/933ページ

最初のコメントを投稿しよう!

222人が本棚に入れています
本棚に追加