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龍の首は長いため、それを曲げた際の頭の可動域も大きく確保できる。柔軟性に自信のあるライズは体を一切動かすことなく、頭部をヤシの木のようにしならせてブランクの剣を躱した。その後も突きから軌道を派生させて剣を振るうが、掴みどころのない嘲るような動きを捉えることはできなかった。
「……こんなものだよね」
「数太刀躱した程度で随分と威勢の良いことだな」
「ああ、勘違いしないで。僕のことだから」
ライズは困った表情を浮かべながら、自分は殺し合いが好きではないと宣った。
「僕はサプライズが好きなんだ。その過程や結果で誰かが死ぬのは構わないけども、そのサプライズの源である命を無碍に奪うのは気が進まない。敵でも味方でも、生きてさえいれば何度でもサプライズを生み出せる可能性があるんだから」
「意外だな。嬉々として殺し合いを楽しみそうな腐った性根をしているものとばかり思っていたが」
「おや手厳しい。確かに化かし合いとか、不意を突くとか、楽しみを見出せないことはないよ。でも武芸大会ならともかく面と向かった命の取り合いとなったんじゃ不測の事態を避けるのが鉄則みたいなところあるからねえ。できることには限りがある。せいぜいさっきみたいに舞いながら回避するのが手一杯さ。それに、ね」
魔法による戦闘がメインとなるこの世界においては武器よりも装飾品としての役割が主になるが、国軍の兵士には剣が支給されており先ほどまでリーダーに化けていたライズの腰にもそれが挿してある。ライズはそれを抜き、切っ先を向けてブランクに投げ付けた。しかし当然光の翼はその干渉を許さず、剣はブランクの体を透過して背後の地面に突き刺さる。
「つまらないんだよね。圧倒的で興覚めするよ、その力」
駆け引きを否定し、徹底して危機を退けるブランクの能力をライズは嫌悪していた。
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