集約

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「ここは炎の国だ。忘れたわけじゃないだろう?」 ライズは腹部から血を流して膝を着く龍希とブランク、そして茫然自失となって立ち尽くしているコールを見下ろしながらそう言った。 「気性は荒いが誇り高く、豪気なドラゴンが多く暮らしていた。かつてのトップだったリフォール家の没落を切っ掛けに起こった後継争いで、僕達シノバズがそんな炎の国を食い潰した時のことを思い出してごらん。果たして馬鹿正直に真正面から戦いを挑んだりしただろうかってね」 当事者であるコールは言われるまでもなく覚えている。その際は後継争いを制するための味方の顔をしていた殺し屋達を国内に招き入れてしまい、誰もが契約を結んで利用した。その結果殺し屋達に内部を掌握され、今でも癒えることのない大きな傷を国全体で負うことになった。 「貴様、よくも、よくもこんな……!!」 コールはようやく血に濡れた刀を手放し、屈辱に打ち震えながら崩れ落ちた。 『な、ながっ……!?』 『どうした龍希……ぐっ!』 龍希とブランクはコールが刺した。龍希がブランクの背に隠れ、コールに背を向けたまま一直線に並んだところを、ライズが投げた刀を拾い上げたコールによって一気に貫かれた。 『糸だ、龍希!コールの腕に糸が絡んで……!』 正体を明かす前のライズに接触を受けた際、コールは高い透明性と強度を誇る特製の糸を腕に巻き付けられていた。 ブランクの光の翼はブランクが許容したもの以外の全てを拒絶するが、ある一個人を許容する場合はその個人に関するものをまとめて受け入れてしまうと言うほんの僅かな粗が存在しており、それをライズは見抜いていた。そのためブランクが一度コールを翼の内側に迎え入れてしまえば、そこに巻き付いている糸も、その糸を操作してコールに掴ませた刀も自動で弾くことができなくなる。 味方だと思って受け入れた者に、内部から体制を崩壊させられる。あからさまに何かを捩ったような策略の実行犯をやらされる以上の屈辱は、コールの人生において後にも先にも存在する筈がなかった。
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