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無論、龍希達はライズのこれ以上の戦闘を望まないと言う言葉を鵜呑みにするつもりはない。コールに仕込まれた糸は既に切断している。もう一度ブランクの背に隠れ、軌道を読まれないように光の剣を振るえば攻勢に移ることができる見込みは十分である。
しかし、龍希はもう二度と不意は突かせないと言う意識で慎重になるあまり体を動かせなかった。
(惑わされるな、殺そうと思っても殺せないなんて嘘だ、まだ何か企んでいる筈だ……)
先ほども龍希とブランクの魔法が強力過ぎて手が出せないなどと嘆く素振りをしながらあっさりと背中を刺した。ならば当然次の手がある筈だと言う懐疑心が新たな糸となり龍希を縛り付けた。
完全だと思っていたブランクの翼が破られたことで、龍希を守ってきたその魔法は呪いと化している。ライズが次に突こうとしている穴はどこか。今踏み締めている地面か、それともこの空気か。そればかりに思考が割かれ、二の足を踏んでいる間に出血が更に嵩む。これ以上の負傷はできないと言う危機感も上乗せされ、足は益々重くなる。
「彼から言われてるんだ。君達二人、特に人間の方は追い詰めすぎると新たな力を発現させる危険性が高いってね。だから僕は逃げ切れるだけの足止めができれば戦果としては上々なのさ」
ライズは収めた刀を再び抜くことはなく、これ見よがしにマスクをかぶり直すとあっさり斜面を蹴って飛び去った。
心身を貫く痛恨の一撃は龍希達の優位を打ち崩したばかりか、狩る者と狩られる者の立場を逆転させるだけの威力を持っていた。残された三人にライズを追う気力はなく、屈辱的なことに命を脅かす相手がこの場から消えたことに胸を撫で下ろしさえした。
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