222人が本棚に入れています
本棚に追加
その後は追跡を警戒しながら何度も飛行ルートを変更し、通常よりも遥かに長い時間を掛けて龍希達は炎の貴族が避難した建物まで辿り着いた。
「テルダ、災難だったな」
「やっと真面目に働いて罪滅ぼしをしようとしたらコレだよ。やってらんねえぜ」
「言う程真面目か?」
元を辿れば、炎の貴族と国軍の接触は地下街の襲撃で身柄を抑えた脱獄犯の引き渡しが目的であり、その本命は炎の貴族を取りまとめるリスキニアと所縁の深いテルダを交渉役に指定することでテルダの恩赦を稼ぐことであった。
そのことを龍希が指摘すると、テルダは隣にいた姉と共に顔を背けた。
「……まあ、それはともかくバレットから大体の事情は聞いたよ。炎の貴族を逮捕することにした国軍の判断はライズに扇動された可能性が高い。王都に戻ってエルゼさんに相談すれば何とかなるかもしれない」
『愚かな……まだ、気が付かないのか』
その名を聞いた時、何食わぬ顔で自分を利用した国軍のリーダーが最後に残した言葉の真意をテルダは理解した。
「ライズ……そう言うことか」
「俺は勿論、テルダにとってもライズは因縁深い相手だな」
「責任転嫁だと思われるのが嫌で今まで黙っていたが、俺がガルド・マキナの暗殺に踏み切ったのはライズに最後の一押しをやられたからだ」
あの夜のことは忘れもしない。ブランクを失い、心のバランスを崩し、二度と自分が傷付かない世界を築くために力を追い求めた。
龍希にとっても未来永劫償い続けると決めた過ちに手を染める原因となった出来事であり、その遠因にライズが存在すると知り改めてその厄介さを認識した。
最初のコメントを投稿しよう!