謀略の発芽

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不本意な形であり、今すぐにでも引き返して門番に耳打ちの内容を問い質したいと言う後ろ髪を引かれる思いはあったものの、ともあれ二人は城内に入ることができた。 入り口に面している巨大なホールには見上げる程大きな八面体の結晶石が鎮座しており、これに蓄えらた膨大な魔力が術式を通じて土の国にある魔法陣に注ぎ込まれることで時間の凍結を維持し続けている。 外の警備が厳重になっている今、獣達の反乱を辛うじて抑え込んでいる力の源に対して警備が付かない筈がない。地面から空中に至るまで兵が無駄なく配置され、魔法による攻撃や攪乱にも対抗できるように専門の術者も備えて万全な体制となっている。 そんな中、龍希達の大本命は一際目立つ最前列の中央に佇んでいた。 「おや。御二方とも、どうされましたか」 元はテルダを率いて炎の国に出たことになっている隊のリーダーは、先ほどまで龍希達と殺し合いをしていた身でありながら両脇に護衛を固めて堂々と出迎える姿勢を見せた。 龍希達二人と面識がある時点で、その正体はまたしてもリーダーの皮を被ったライズであると見てほぼ間違いはない。長々と会話をしてライズのペースに飲まれるくらいならば、この場で無理矢理全員の注目を集めて正体を暴く強硬手段も十分に候補である。 しかし、口を開こうとしたことろでこの場に更なる波乱を呼び込む刺客がホールの外周を伝う螺旋階段の上から現れた。 「これはこれは、ブランク様。本日はどのようなご用件で」 「ギランハーツ……!」 グルガンの兄であり本来であればそれと同様にマキナ家の眷属となる筈であったが、戦場に立つことを避けるべく国軍に身を置いたことを切っ掛けに反マキナの思想が徐々に胸中で育ち、現在では敵対を隠すことすら止めつつある。 そんな男が、リーダーと目配せをして薄く笑っている。その光景を見て警戒心を抱かないことは到底不可能であった。
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