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この場はもはや、一対一の話し合いの場ではない。周囲にいた見張り役の兵は、ぐるりと三人を取り囲みブランクとウェイクの会話の行く末を静かに見守っている。しかしブランクはその異様な雰囲気に気圧されることはなかった。
ここまであからさまな真似をして虚仮にされ、挙げ句目の前にいるのが無関係な国軍などと言うことがあっては堪らない。加えて、そもそも刀身をちらつかせること自体ライズでなくとも許されざる威嚇行為でありこの世界の掟と身分差を考えれば手を上げる程度のことは起こり得る暴挙である。
だが、ウェイクはそれを覚悟ある行為でなければ許されないと言った。既にマキナの名には、他人に振り翳せるほどの威厳はないと言い放ったに等しい。まるでこの様子を螺旋階段の上から見下ろしているギランハーツの意思が乗り移ったかのようであった。
「事が済むまで指一本動かすな。さもなくば容赦はしない」
「ええ、お好きにどうぞ」
ブランクはその返事すら待たずにウェイクの襟元を切り裂き、首の付け根に爪を突き付けた。そしてそれを食い込ませたまま首筋をなぞるようにゆっくりと上に進み、マスクの境界線に引っ掛かるのを待った。
一度目は空振り、顎の裏を通って口先まで来てしまった。角度を変えて二度、三度と繰り返すが、変装の一端すら露わになることはなかった。
「……!」
「どうされましたか?もう、動いても良いでしょうか」
そう言いながらも、ウェイクは微動だにせずされるがままになっている。奇妙なことに、言い付け通り指の一本すら動かすことなくブランクを追い詰め甚振っているのは間違いなくウェイクの方であった。
「まさか、変装ではなく変身の魔法に切り替えて……」
「確か、その魔法は闇属性のものですよね?」
ウェイクはこれ見よがしに光球を手の平に浮かべ、ブランクの追及を掻き消した。
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