謀略の発芽

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「ブランク、限界だ」 ゲストとしてこの場に立っていられるのは今が限界。ここが臨界点。周囲を刺激しないように小声で龍希がそう言った。 もはやどんな言葉も詭弁と化し、聞き入れてはもらえない。ライズの仕掛けたトリックなのか、ウェイクの裏切りなのかは不明であるが、炎の国の貴族を討伐するのは時期尚早であると主張できるタイムリミットが来てしまった。そして現状では、それは失敗したと言っても良い。 「一体何が起こっていると言うのだ……」 龍希の声で錯乱状態からは脱したが、ブランクは未だに割り切ったと言うには程遠い心境であった。 誰の心境がどのようなものであれこれ以上兵の接近を許すわけにはいかない。不意打ちに対応し損ねて魔力を封じる枷を付けられてしまえば、その瞬間あらゆる抵抗が不可能となる。取り囲んでいる兵の一部、或いは全員が飛び込んで来ても辛うじて防御の展開が追い付ける間合い、その境域にもう半歩も踏み込まれてしまっている。 しかし、光の翼はまだ展開されない。今ブランクを躊躇わせているのは『防御』と言う行為が持つ決して切り離すことのできないメッセージであった。 (ギランハーツ……どれだけ傍観者を装っても無駄だ。我には分かる。周囲の兵を寄せて圧力を掛けるように指揮しているのは貴様だ。この状況を作り出しているのは貴様だ……!) この場にいる全員が束になろうと龍希とブランクには敵わない。ブランクは今直ぐにでも光の翼を展開し安全を確保することは非常に容易である。そしてギランハーツはそれを理解した上で、寧ろそれをするように仕向けている。 防御とは危険から身を守ること。言い換えればブランクの周囲にいる兵を危険と見做すと言うこと。即ち、国家勢力との敵対を認める行為となるからである。
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