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どうにか体裁を取り繕おうと、ブランクは出直すとだけ告げて踵を返そうとしたが当然そのような弱腰が見過ごされる道理はない。
「お待ち下さい」
ウェイクは遠慮などすることなく手を伸ばし、ブランクは反射的にそれを払い除けてしまった。
「これは手厳しい。ですが貴方は私に疑いの目を向け、その後直に確かめた。貴方も同じ待遇を受けるべきだとは思いませんか」
「・・・・・・」
暗にではあるが、その言葉は『身柄を拘束させろ』と宣言を受けたに等しい。
ウェイクは変装を暴こうとするブランクに触れられた際、相応の覚悟が必要であると忠告した。それを踏み越えて行為に及んだブランクに返す言葉がある筈もなく、懇願と抗議の入り交じった眼差しで睨むことが精一杯であった。
場が膠着するかのように見えた時、悪足搔きを叩き潰すかのような強烈極まりない重圧を頭上に感じた。それを振り払ってどうにかブランクが顔を上げると、ギランハーツの隣に今最も出会いたくないと言っても過言ではない人物が佇んでいた。
「グルガン……!」
その表情は無そのもので、静かに見下ろす目線が先ほど降り注いだ重圧の正体であると理解した。以前ブランクに向けていた優しさは影も形もなく、ブランクの無実を信じているとは思えない佇まいであった。
「どうだグルーフィン。あれがかつて敬愛した者の姿だ。色眼鏡を外して客観的に見てみると、何のことはないだろう。見境のない交流を正義と勘違いしているだけの哀れな男だ」
「……仰る通りですね。兄様」
凍て付く程に冷たい小声はブランクの耳に確りと届き鼓膜と共に心まで揺さぶられた。勝ち誇ってにやけているギランハーツが親し気に肩を抱く姿を見せ付けられるだけで、正気が急速に失われて行くのを感じた。
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