謀略の発芽

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「どの道、お前の下らない挑発に乗るつもりはねえ。残念だったな」 「挑発ではない、挑戦だ。貴様が傷付けられた自尊心を取り戻すために我々を目の敵にしてるように、我も今この場で受けた屈辱を晴らすために喧嘩を売っている」 別に暴力で打ちのめす必要はない。ギランハーツが自分の意志でチャンスを捨て二度と入ることの出来ないこの翼の中から出て行ってくれればそれで十分だとブランクは言った。 「貴様がその薄汚い尻尾を巻いておめおめと逃げると言うのならそれで構わぬ。我はその姿を目に収めてこの場を去るだけだ。貴様の言う通りその先は国軍との熾烈な戦いになるだろうが、貴様自身と相対することはもうあるまい」 こうしてわざわざ自分から一対一の場を作ってもなお逃げ出すのなら、ギランハーツの方から同じことができる筈がない。一度きりのチャンスとは、ブランクの翼の中に侵入できることではなくブランクがギランハーツを敵と見做すことを指していた。 「何とでも、言え。俺は……」 「賢明に、懸命に生きて来たのだものな。ボルトガードへの任命を妹のグルガンに押し付け、国軍に逃げ延びて後ろ指を差されながら待ち続けたチャンスがやっと来たのだろう。猫を被っていた時ならまだしも、こうして本性を現しても尚我から逃げるのか。本当はマキナ家を敵視する気などないのではないか?怖いのなら無理をすることはないぞ」 「ギッ、きぃ……!」 既に退散しようとしていた足は床に縛り付けられたかのように止まっており、奥歯を噛み締め頬を引き攣らせている。 「その様子では祖父上や父上に啖呵を切ったと言うこともあるまい。祖父上に傅き、父上のことは恐れて逃げ回る。況してや我は末代だぞ。これ以上妥協して一体誰を相手にしようと言うのだ。時として恥を耐え忍ぶことも大事であろうが、無様を晒すにも限度と言うものがあるだろう」 「殺してやる」 「良いぞ。掛かって来い」
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