謀略の発芽

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ギランハーツは翼を広げて螺旋階段を飛び降り、ブランクはそれに合わせて翼を変形させた。 「二度と、俺のことをバカにはさせねえ」 「うむ。それは貴様次第だ。使命から逃げ出したことによって背負った汚名は、使命を果たすことでしか返上できまい。国軍の指揮官として、皆の前で確りとその役目を果たすが良い」 「黙れ……!」 同じ地に降り立った後はブランクとやり取りをしつつも僅かに距離を縮めいよいよ戦闘態勢に入ろうとした時、ギランハーツは腰に掛けた手にサーベルの感触がないことに気が付いた。それは今、共に弾かれたグルガンが拾い上げその手の中にあった。 「悪いが武器の使用は許可できん。どうあっても最愛の者は守らねばならぬのでな。身から放たれた魔法も同じように霧散する」 使えるのは己の拳一つと、それに纏わせた雷までとなる。雷を織り交ぜた格闘はボルトガードが伝統的に使いこなして来た戦術であり、当然ブランクはそれを理解した上でこの戦いを挑んでいる。 「武器や魔法が使えねば不安か」 「ボルトガードの役目から逃げた俺が、何の鍛錬もせずにいると思って高を括ってやがるのか」 「違うならさっさと掛かってくれば良いだろう。いくら御託を並べても腰が引けていては格好が付かぬぞ」 武器や魔法の使用を拒絶した時点でこの戦いは命を取り合うものではなく、行われるのは単純かつ明快な『格付け』に他ならない。ブランクの指摘した通り、長きに渡って自身を苦しめてきた劣等感からの解放を夢見てきたギランハーツにとって、一度敵意をひけらかした以上この格付けは引き下がれるようなものではなくなっていた。やっと表に出した本当の自分の姿でブランクの前から逃げることはどうしてもできなかった。
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