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既に交わすべき言葉は全て交わし終えた。後はお互い動き出すタイミングを計らいながら、ジリジリと距離を詰める。辛抱できず先に拳を振り上げたのは、やはり心に余裕のないギランハーツであった。
(構えが大きい。精神が緊張で張り詰めて、まるで膨らみ切った風船のようだ)
ブランクは対照的に、小さく最低限のモーションで足を突き出した。爪先がズボンの裾に触れた途端、その風船は呆気なく破裂した。
「ウッ」
短い声を上げ、殆ど反射同然の動きでブランクに触れた側の足を引っ込める。基礎的な戦闘の心得、或いはそれなりの闘志があれば苦も無く押し通ることができるであろうブランクの小手調べにギランハーツは早くも後退の意識を炙り出されてしまった。
「来ないのか。では此方から行くぞ」
拳を前に出そうと重心を移動したタイミングで足だけを後ろに引くと言うちぐはぐな動作ではバランスを保てる筈もない。ブランクは出鼻を挫かれてふら付いたギランハーツの懐に容易く潜り込み、低い姿勢から鳩尾に挨拶代わりの一発を叩き込んだ。
「う、げっ!」
「どうした。憎っくきマキナの末裔は此処にいるぞ」
「だ、黙れと何度言わせれば……」
「ならば体を動かすとしよう」
「ひっ……」
ギランハーツがよろめきながら後退りするとブランクは律儀に歩数を合わせて詰め寄る。苦し紛れに放たれた拳を大きく外に払い飛ばし、再び露わになった懐に容赦なく進撃を再開する。
属性の恩恵で電撃に耐性があろうとも、完全に無力化するには至らない。呼吸器や内臓に近い場所に打撃と共に叩き込まれれば地獄の苦しみを味わうことになる。ギランハーツには先ほどの一撃が深くまで刻み込まれており、それと全く同じ鳩尾を愚直にガードした。
当然、それ以外の場所は無防備である。
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