221人が本棚に入れています
本棚に追加
深々と降る雪のように、静かに積もった感情が今この瞬間ついに炸裂した。ガードを下げたギランハーツの顔面に向けて、ブランクは硬く握った拳を深々と叩き込んだ。
命中させることを最優先としたため、威力は大きなものではない。しかしドラゴン特有のマズルを長手方向に押し潰す一撃は最小のエネルギーで最大限のダメージを与える手法であり、容赦をするつもりはないと言う意志が強烈に込められていた。
「貴様をいくら痛め付けたところで現状を打開することはできぬ。これまでの亡状は今の一発で済ませてやっても良い。だが……」
間髪入れず浮き上がった爪先を踏み付ける。後ろに倒れまいと反射的に尾を地面に突っ張らせていたギランハーツはそれが助けになり身を起こすことに成功したが、それは即ちブランクの前にもう一度顔面を献上する行為に他ならない。
「この胸に滾る『何か』が消えるまで、楽にはさせんッ!」
更にもう一発。今度は外から内へ巻き込む軌道、所謂フックと呼ばれる打撃を見舞われギランハーツは大きく左によろける。その次に待っているのは無論左からのフックである。糸の切れた人形のように、その後暫く打ちのめされながら踊るギランハーツの姿は誰の目にも惨めに映った。格付けと言う名目においては、決着は完全に付いたと言っても過言ではない。
しかし、それでもブランクが胸に滾ると訴える『何か』は消えることがなかった。
(ブランク……マキナ……)
弾き飛ばされて自分の側に落ちていたサーベルを拾い上げ、かつて敬愛した男と今従うべき男の決闘を目の当たりにしたグルガンは、この場にいる全ての者と全く違う感情を抱いていた。
想いを馳せる先は、まだ幼いブランクに初めての稽古を付けた日のことであった。
最初のコメントを投稿しよう!